街角でふと目に入る、味わい深い文字の看板。
かつて看板はすべて「手描き」で作られていました。その文字は、どのように生まれ、なぜ姿を消していったのでしょうか。
本記事では、手描き看板の歴史から日本での広がり、そして制作の仕組みまでをわかりやすく解説します。
手描き看板の始まりは江戸時代

看板の起源は江戸時代にさかのぼります。
商家の屋号や品名を木板に墨で書いたのが始まりでした。
当時は印刷技術が未発達だったため、文字はすべて筆で描かれていました。
やがて明治時代になると、西洋塗料やガラスが輸入され、看板はより華やかになります。
ここから、看板は本格的な“職人の仕事”へと発展していきます。
昭和に花開いた手描き文化

戦後の高度経済成長期、商店街は活気にあふれていました。
看板職人は木板やトタン、ガラスに直接文字を描き、店ごとの個性を表現しました。
特に飲食店や理髪店、映画館などでは、大胆な書体や立体的な影文字が流行。
看板は単なる表示ではなく、街の景観そのものを作る存在だったのです。
手描き看板はどうやって作られるのか?

手描き看板の工程は、実はとても繊細です。
① 下地処理(サンディング・下塗り)
② チョークや墨で下書き
③ 筆で本塗り
④ 縁取り・影付け
⑤ クリア塗装で保護
筆の太さや角度、塗料の粘度で線の表情は大きく変わります。
一筆で仕上げる緊張感。そこに職人の経験が宿ります。
なぜ手描き看板は減ったのか?
1970年代以降、看板業界に大きな変化が起こります。
- カッティングシートの登場
- インクジェット出力の普及
- 短納期・低コスト化
- LEDサインの増加
デジタル化により、均一で正確な文字が簡単に作れるようになりました。
時間と技術を要する手描きは、次第に主流から外れていきます。
それでも残る手描きの魅力

現在でも、あえて手描きを選ぶ店舗は存在します。
理由は明確です。
- 均一ではない“揺らぎ”
- 人の温度を感じる筆跡
- 空間に溶け込む柔らかさ
デジタルでは再現できない魅力があるからです。
手描きは効率ではなく、“感情”に訴える表現なのです。
まとめ:手描き看板は“街の記憶”
手描き看板は、職人の技と感性が融合した表現でした。
その技術は減少しましたが、デザイン思想は今も生きています。
看板は街の顔。
そして手描き看板は、街の記憶そのものなのです。
※本記事は、サイン製作・施工に携わる実務視点と、公開文献資料をもとに編集しています。
参考文献
- 橋爪紳也『にっぽん電飾看板史』青幻舎
各地商店街アーカイブ資料